不利益処分とは、行政庁が法令に基づき、特定の者を名あて人として、直後に、これに義務を課し、またはその権利を制限する処分をいいます。
行政庁が私人に対して、このような不利益処分をしようとする場合、以下のような手続を踏まなければなりません。
(1)処分基準の設定と公表
行政庁は、不利益処分をするかどうか、またはどのような不利益処分をするかについてその法令の定めに従って必要とされる基準を、その不利益処分の性質に照らし、できる限り具体的に定め、これを公にしておくように努めることとされています。
(2)不利益処分の事前手続-聴聞と弁明の機会の付与
行政庁は、不利益処分をしようとするときは、その不利益処分の名あて人となるべき者について、意見陳述のための手続、すなわち聴聞または弁明の機会の付与の手続を執らなければならないとされています。
その区別の基準は、一言で言って、その不利益処分が重大なものか否かということです。
①聴聞
聴聞手続は、行政庁と当事者の口頭でのやり取りを通じて争点を明確にすることによって、処分の適性を確保しようとする手続であり、弁明の機会の付与よりも厳正な手続ということができます。
その対象となるのは、名あて人の利益に対する侵害の程度が大きい一定の重大な処分をする場合です。
(ⅰ)許認可を取り消す不利益処分
営業免許取り消し処分、営業許可取り消し処分などがこれにあたります。
(ⅱ)名あて人の資格または地位を直接に剥奪する不利益処分
これは、帰化せずに取得した国籍のように、許認可等によらずに取得した資格または地位を剥奪する場合です。
(ⅲ)名あて人が法人である場合における、その役員・業務従事者の解任またはその会員の除名を命ずる不利益処分
例えば、A法人に対して、その理事Bの解任を命ずる処分をする場合、処分の相手方はA法人です。
しかしこの場合、理事Bは解任されることによって重大な不利益を受けることになりますから、理事Bを実質的な当事者として扱い、聴聞が必要とされるのです。
(ⅳ)上記以外の場合で、行政庁が相当と認めるとき
②弁明の機会の付与
弁明の機会の付与は、書面審理によって行われる手続であり、聴聞よりも略式の手続と言えます。
例えば、業務停止命令などは、原則として弁明の機械の付与手続に行われます。
ただし、個別の法律の規定により、この区分が排除される場合があります。
なお、聴聞または弁明の機会の付与手続によらなければならない処分であっても、公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、意見陳述のための手続を執ることができない時など一定の場合には、例外的に、それらの手続によらずに不利益処分を行うことができます。

(3)不利益処分の理由の提示
行政庁は、不利益処分をする場合、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければなりません。
ただし、当該理由を示さないで差し迫った必要がある場合、その必要はありません。
尤も、その場合でも、処分後相当の期間内に理由を示さなければなりません。
不利益処分を書面でするときは、その理由は、書面により示さなければなりません。

(4)聴聞手続の過程
①聴聞の通知
行政庁は、聴聞を行う期日までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対して、次の事項を書面により通知しなければなりません。
さらに、当該通知書には、次の二つの事項についての教示が必要です。
(ⅰ)聴聞に出頭して意見を述べ、及び証拠書類等を提出し、または出頭に代えて、陳述書及び証拠書類を提出できること
(ⅱ)聴聞が集結する時までの間、当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができること。
②聴聞の代理人
聴聞の通知を受けたものを当事者といいます。
当事者は代理人を選任することができます。
代理人の資格は書面で証明しなければなりません。
代理人は、各自、当事者に代わって聴聞に関する一切の行為をすることができます。
代理人がその資格を失ったときは、その代理人を選任した当事者は、書面でその旨を行政庁に届け出なければなりません。
③参加人
当事者以外の者であって、その不利益処分につき利害関係を有すると認められるものは、聴聞の主宰者の職権または主宰者の許可を得て、その聴聞の参加人となることができます。
参加人は、代理人を選任することができ、その場合当事者の代理人に関する規定が準用されます。
④文書等の閲覧
当事者及び当該不利益処分がなされた場合にじこの利益を害されることとなる参加人は、聴聞の通知があった時から聴聞が集結する時までの間、行政庁に対し、当該事案についてした調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができます。
この閲覧請求があった場合、行政庁は、第三者の利益を害する恐れがあるときその他正当な理由がなければ、その閲覧を拒むことができません。
さらに、当事者及び参加人は、聴聞の期日における真理の進行に応じて必要となった仕様の閲覧を求めることもできます。
⑤聴聞の期日における審理方式
(ⅰ)主宰者
聴聞は行政庁が指名する職員その他政令で定める者が主宰します。
(ⅱ)聴聞手続の開始
主宰者は、最初の聴聞の期日において、行政庁の職員に予定される不利益処分の内容、根拠となる法令の条項、その原因となる事実を出頭した者に対して説明させなければなりません。
これによって、聴聞が開始されます。
(ⅲ)当事者または参加人の主張・立証
当事者または参加人は、聴聞の期日に出頭して、意見を述べ、証拠書類等を提出し、主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し質問を発することができます。
(ⅳ)主宰者の聴聞指揮権
主宰者は、聴聞の期日において必要があると認めるときは、当事者または参加人に対し質問を発し、意見の陳述、証拠書類等の提出を促し、または行政庁の職員に対し説明を求めることができます。
主宰者は当事者または参加人の一部が出頭しない時でも、聴聞の期日における審理を行うことができます。
主宰者は、聴聞の真理の経過をkさいした調書を作成し、その調書に不利益処分の原因となる事実に対する当事者及び参加人の陳述の要旨を明らかにしておかなければなりません。
この調書は、聴聞の期日における審理が行われた場合には各期日ごとに、審理が行われなかった場合には聴聞の終結後速やかに作成しなければなりません。
⑥聴聞の終結・再開、不利益処分の決定
主宰者は、聴聞の終結後速やかに、不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し、聴聞調書とともに行政庁に提出しなければなりません。
行政庁は、聴聞の終結後に生じた事情に鑑み必要があると認めるときは、主宰者から提出された報告書をエンレイして聴聞の再開を命ずることができます。

(5)弁明の機会の付与
①弁明の機会の付与の通知
行政庁は、弁明書の提出期限までに、相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、書面により次の事項を記載した通知をしなければなりません。
1、予定された不利益処分の内容及び根拠法令の条項
2、不利益処分の原因となる事実
3、弁明書の提出先及び提出期限
②弁明の方式
弁明は、行政庁が口頭ですることを認めた時を除き、弁明を記載した書面を提出して行います。
弁明するときは、証拠書類等を提出することができます。