不服申し立ての要件とは、審査請求や再調査の請求、再審査請求を審理してもらうための要件であり、その要件の一つでも欠けると、不服申し立て人の言い分に理由があるかどうかの実質的審理に入ることなく、不服申し立ては却下されることになります。
要するに、不服申し立ての要件が欠けると、その申し立ては門前払いされることになります。
(1)不服申し立ての対象
先にあげた行政庁の「処分」と「不作為」に対して不服申し立てをすることができます。
処分に該当しないものや不作為とは言えないものについては不服申し立てをすることはできません。
「処分」の意義について判例は、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」としています。
また、継続的性質を有する事実行為についても「その他公権力の行使に当たる行為」として不服申し立ての対象となります。
ここでは行政庁の行う「申請に対する処分」「不利益処分」のようなものを念頭に置いておけば良いでしょう。
処分については、違法なものだけでなく、違法ではないが不当なものもその対象となることに注意してください。
(2)不服申し立てを行い得る者
どのような者が不服申し立てをすることができるかについては、不服申し立てをすることのできる一般的な資格(不服申し立て能力)と具体的な事件について不服申し立てのできる適格(不服申し立て人適格)を区別して理解しておきましょう。
①不服申し立て能力
(ⅰ)その名で不服申し立てできる者
私法上の権利能力者、つまり自然人及び法人は当然に不服申し立て能力を認められます。
日本国籍を保有しているかどうかを問いませんから、外国人にも不服申し立て能力が認められます。
そのほか、法人でない社団、財団であっても、代表者または管理人の定めがあるものについては、その名で不服申し立てをすることが認められています。
つまり、法人格を有しない社団・財団であっても、規約等に代表者・管理人の定めがあり、運営の方法が確立し、構成員の変動にもかかわらず組織が存続する等一定程度の組織性を有している団体は、その団体自身の名義で不服申し立てをすることができます。
(ⅱ)多数人が共同して不服申し立てをする場合
上に述べた程度の組織性を有していない多数人が共同して不服申し立てをしようとするときは、全員の名で不服申し立てをすることになりますが、審理の錯綜・混乱を避けるため三人を超えない総代を互選するという便宜的方法が認められます。
総代は、各自、他の共同不服申し立て人のために不服申し立ての取り下げを除き、当該不服申し立てに関する一切の行為をすることができます。
総代が選任されたときは、共同不服申し立て人は、総代を通じてのみ、不服申し立てに関する行為をすることができます。
共同不服申し立て人に対する行政庁の通知その他の行為は二人以上の総代が選任されている場合においても、一人の総代に対してすれば足ります。
共同不服申し立て人は、必要があると認めるときは、総代を解任することができます。
(ⅲ)代理人による不服申し立て
不服申し立ては、代理人によってすることが認められています。
代理人の資格については、特に制限は設けられていません。
なお、平成26年の行政書士法改正により、一定の研修過程を修了した行政書士(特定行政書士)に、許認可等に関する審査請求等の代理権が付与されることになりました。
これにより、特定行政書士は、業として(反復継続して)代理業務を行うことができることになります。
代理人は、各自、不服申し立て人のために当該不服申し立てに関する一切の行為をすることができます。
ただし、不服申し立ての取り下げは、特別委任を受けた場合に限り、することができます。
②不服申し立て人適格
上に説明した不服申し立てをすることのできる一般的資格(不服申し立て能力)さえあれば、行政庁の処分に対して誰でも不服申し立てができるかというと、そうではありません。
適法な不服申し立てをなし得るためには、さらに具体的な事件について、不服を申し立てるに相応しい者であることが必要です。
これが不服申し立て人適格の問題です。
この不服申し立て人適格について、判例は、取消訴訟における原告適格と同様、取り消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に認められると解するようです。
この「法律上の利益を有する者」と言う条件上の概念について、判例は、「当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害される恐れのある者」と解しています。
不服申し立ての制度は、行政庁の処分によって権利利益を害される私人の利益保護を第一の目的とすると言う点で、取消訴訟と共通するものがあり、不服申し立て適格は取消訴訟における原告適格とパラレルに理解できるのです。
したがって、この点についても、取消訴訟の箇所で詳述します。
(3)不服申し立て期間
行政上の法律関係の早期安定の要請から、不服申し立てをなし得る期間には、制限が設けられています。
この期間内に不服申し立てをしなければ、不服申し立てによる取り消しを求めることができなくなります。
①処分についての審査請求期間・再調査の請求期間
(ⅰ)主観的請求期間
処分についての審査請求・再調査の請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内にしなければなりません。
また、当該処分についてすでに再調査の請求をしていた場合、その審査請求は、当該再調査の請求の決定があったことを知った日の翌日から起算して1ヶ月以内にしなければなりません。
しかし、審査請求・再調査の請求をしなかったことについて正当な理由があるときは、この期間を経過してもすることができます。
(ⅱ)客観的請求期間
審査請求・再調査の請求は、処分があった日の翌日から起算して1年を経過すると、処分があったことを知らなかったとしても、これをすることができなくなってしまいます。
当該処分について既に再調査の請求をしていた場合、当該再調査の請求についての決定があった日の翌日から起算して一年を経過した時も同じです。
しかし、審査請求・再調査の請求をしなかったことについて正当な理由があるときは、この期間を経過してもすることができます。
②再審査請求期間
(ⅰ)再審査請求は、審査請求についての裁決があったことを知った日の翌日から起算して一ヶ月以内にしなければなりません。
最も、再審査請求をしなかったことについて正当な理由があるときはこの期間を経過しても再審査請求をすることができます。
(ⅱ)再審査請求は、審査請求についての裁決があった日の翌日から起算して一年を経過したときは、一年を経過しても再審査請求をすることができます。
③不作為についての不服申し立て
不作為については、その性質上、不服申し立て期間の制限はありません。
その不作為状態が継続する間は、いつでも不服申し立てをすることができます。