審査請求及び再審査請求に対する審査庁の最終的応答が裁決です。
裁決には、却下、棄却、容認の三つの基本類型と棄却採決の特殊な類型として事情裁決があります。
行政不服審査法は、裁決をすべき時期について規定をおいていますから、まずこの点について把握しておきましょう。
(1)裁決の時期
次のいずれかの事由に該当するときは、審査庁は、遅滞なく、裁決をしなければなりません。
①行政不服審査会等から諮問に対する答申を受けたとき
②行政不服審査会等への諮問を要しない場合には、審査員意見書が提出されたとき
③裁決をしようとするときに、他の法律・条例で定める一定の機関の議を経るべき旨または経ることができる旨の定めがあり、かつその議を経て裁決をする場合にはその議を経た時
④法令に基づく申請に対して一定の処分をすべきものと認める場合や不作為について一定の処分を命じる場合で、審議会等の議を経て裁決をしようとする場合にはその議を経た時
(2)裁決の種類
①却下裁決
却下裁決とは、審査請求期間を徒過した、審査請求できない事項について審査請求をした、審査請求人適格が欠ける、審査請求書の補正命令に従わなかった等、審査請求の適法要件を欠く場合に実質的な審理に入ることなく、審査請求を門前払いする裁決です。
②棄却裁決
審査請求が 適法要件を満たしている場合には、その内容の当否に立ち入った実質的審理が行われますが、その審理の結果、審査請求人の請求に理由がないと判断されたときは、 棄却採決がなされます。
「請求に理由がない」とは、処分または不作為に審査請求人の主張するような違法・不当な点は 見当たらないと言うことであり、この棄却採決がなされたときは元処分の効力が維持されることになります。
③許容裁決
審査請求の内容を実質的に審理した結果、審査請求人の請求に理由があるときは、認容採決がなされます。
つまり、審査庁が、処分または不作為が違法又は不当であることの審査請求人の主張を認めてくれるわけです。
この認容裁決 については、取り消し、撤廃、変更の3つの種類があります。
以下、処分についての認容裁決、事実上の行為についての認容採決、不作為についての認容採決がそれぞれどのようになされるのかを整理しておきます。
(ⅰ)処分についての認容裁決
処分についての審査請求に理由がある場合、審査庁は、採決で当該処分の全部もしくは一部の取り消しまたは変更することができます。
取り消しは、処分であって事実行為を除くものの全部又は一部の効力を失わせることです。
変更とは、処分の内容を変更する採決であり、例えば営業停止期間を短縮したり、 営業免許取り消し処分を営業停止処分とする事がこれにあたります。
変更は、審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁のいずれでもない場合にはできません。
逆に言うと、処分を変更することができるのは、処分庁の上級行政庁または処分庁だけです。
また、法令に基づく申請を却下し、 または帰宅する処分の全部もしくは一部を取り消す場合において、審査庁は、当該申請に対し一定の処分をすべきものと認めるときは、次のような措置をとるものとされています。すなわち、
(イ)審査庁が処分庁の上級行政庁である場合には、当該処分庁に対し当該処分をすべき旨を命じる。
(ロ)審査庁が処分庁である場合には、自ら当該処分をする。
(ⅱ)事実上の行為についての認容裁決
事実上の行為についての審査請求に理由がある場合、審査庁は、採決で、当該事実上の行為が違法又は不当である旨を宣言するとともに、審査庁は、次のような措置をとるものとされています。
すなわち、
(イ)処分庁以外の行政庁は、当該処分庁に対し、当該事実行為の全部又は一部を撤廃し又はこれを 変更すべき旨を命じる。
撤廃とは、例えば、収容されている者を放免したり、領置している物を変換したりすることです。
(ロ)処分庁である審査庁は、当該事実行為の全部又は1部を撤廃し、又はこれを変更する。
(ⅲ)不作為についての認容裁決
不作為についての審査請求に理由がある場合、審査庁は、裁決で、当該不作為が違法又は不当である旨を宣言するとともに、一定の処分をすべきものと認めるときは、次のような措置をとるものとされています。
すなわち、
(イ)審査庁が不作為庁の上級行政庁である場合、当該不作為庁に対し、当該処分をすべき旨を命じる。
(ロ)審査庁が不作為庁である場合、当該処分をする。
(3)裁決の方式
裁決は、審査庁が記名押印した裁決書と言う書面でしなければなりません。
裁決書には、法定事項として、処分、事案の概要、審理関係人の指導の趣旨及び裁決の判断に至った理由を記載することが義務付けられています。
行政不服審査会等への諮問を要しない場合には、裁決書には、 審理意見書を添付しなければなりません。
さらに、審査庁は、再審査請求をすることができる採決をする場合には、裁決書に再審査請求をすることができる旨、再審査請求をすべき行政庁、再審査請求期間を記載し、これらの事項を表示しなければなりません。
(4)裁決の効力とその発生時期
①効力
裁決・決定も行政行為ですから、行政行為一般に認められる肯定力、実行力、不可争力が生ずるほか、裁決・決定に特有の効力として不可変更力が生じます。
すなわち、裁決・決定をした行政庁は、自らそれを取り消すことができません。
自らした裁決・決定を取り消すことができるとすると、行政上の法律関係の混乱が続いてしまうことになりかねないからです。
審査請求人の請求を容認する裁決については、その実効性を確保するために、関係行政庁を拘束する効力を生じます。
これを拘束力と言い、具体的には次のような内容を持つものです。
すなわち、申請に基づいてした処分が手続きの違法もしくは不当を理由として裁決で取り消され、または 申請を却下もしくは棄却した処分が裁決で取り消されたときは、行政庁は、裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければなりません。
この場合、行政庁は、何ら事情が変わっていないのに、同じ処分を繰り返すことができません。
そうでないと、裁決で示された判断が何の意味もなくなってしまうからです。
ちなみに裁決の拘束力は、認容裁決にのみ認められ、棄却裁決には認められません。
②効力発生時期
裁決は不服申し立て人に送達されたときに効力を生じます。
裁決の送達は、送達を受けるべきものに裁決書の謄本を送付することによっておこないます。
送付を受けるべき者の所在がしれないときは、公示の方法による送達も可能です。