(1)行政立法の意義
実質的意味の「立法」とは、伝統的な理解に従えば、「国民の権利を制限し、または国民に義務を課する成文の法規範(法規)を定立する作用」と定義されます。行政立法とは、行政機関がそのような規範を定めること、あるいは行政機関により定められた規範のことです。
憲法は、国会を「唯一の立法機関である」と定め、実質的意味の立法を国会の権限としています。その一方で、憲法は行政機関の制定する命令すなわち行政立法の存在を予定した規定を置いています。つまり、行政立法は「国会中心立法原則」の例外として憲法上認められるわけでス。「法律による行政」の原理からすると、行政機関自らが立法を行うのは多少矛盾するように思われるかもしれません。しかし、膨大かつ多様化し、しかも専門手k・技術的判断の要求される現代コカの行政需要に国会が適時・適切に対応するには限界があり、国会の立法能力の不足を行政機関が補う必要があります。つまり、実際上、行政機関による立法の補完が不可欠といえる状況にあるため、やむに已まれぬ実際上の必要性から行政立法を認めざるを得ません。
例えば、「建築基準法」は、建築物の敷地、構造、設備、用途に関する最低の基準を定めた法律ですが、この法律には、相当に膨大な内容を持つ「建築基準法施行令」及び「建築基準法施行規則」といった法令が付属しています。これらが、行政立法であり、建築基準法の定めをより詳細かつ具体化したものです。
本体である建築基準法は、当然国会の議決を経て制定されていますが、建築法規には、きわめて細かい専門的かつ技術的な事項の定めが不可欠です。そこで、専門的技術的な部分の定めは、有能な行政官僚を多数擁する行政機関にゆだねざるを得ません。これはあらゆる行政法規について言えることです。
(2)行政立法の種類
行政立法は、その性質を基準にした場合、大きく分けて「法規命令」と「行政規則」に分類できます。
①法規命令
法規命令は、本来法律で定められるべき事項を命令で定めさせているものです。この法規命令は、さらに、法律による委任を受けて国民に新たに権利義務を設定する委任命令と法律を実施するための具体的細目を定める執行命令とに区別できます。
建築基準法施行令は、建築基準法ん定めをより具体化して国民に新たな制限を課すことを主な内容としているため、その大部分が委任命令に該当し、建築基準法施行規則は主として申請書その他の各種書類の様式とその記載事項等建築基準法を施行するために必要な具体的細目を定めるものであるため、その大部分が執行命令に該当します。
②行政規則
行政規則とは、行政機関が定立する規範であって、法規としての性質を有しないものです。すなわち、行政規則は、国民の権利義務に直接関わるものではないので、行政機関が法律の委任なく定めることができます。行政規則の主なものとして、訓令及び通達があります。訓令とは、上級行政機関が行政の内部基準として下級行政機関を指揮・監督するために発する命令です。通達は、その訓令が書面となっているものです。
通達には、所管の法律や命令の解釈の指針や最良の基準などが定められるのが普通です。訓令・通達等の行政規則は、行政の内部基準として下級行政機関を拘束しますが、国民との関係では効力を持たない、つまり国民の法的利益に対して直接の影響を及ぼすものではないので、通達そのものは、原則として取消訴訟の対象とはなりません。通達に従った処分がなされ、それによって不利益を受けた私人は、その処分について取り消しを求める訴えを提起し、通達に基づく処分の違法を主張すべきことになります。この場合裁判所は、法令の解釈適用に当たっては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができるとされています。