行政行為は、法に従い適正に行われることが求められます。
しかし、行政庁が法に違反した行政行為を行ったり、法違反とまでは言えなくても、実質的に適性を欠く不当な行政行為が行われることが皆無とは言えません。
このように違法または不当な行政行為を瑕疵ある行政行為といい、瑕疵の程度によって、無効の行政行為とそれ以外の取り消すことのできる行政行為に区別されます。
区別の基準は、行政行為に重大かつ明白な瑕疵があるかどうかです。

(1)行政行為の無効
①意義
行政行為に「重大かつ明白な瑕疵」があるとき、その行政行為は無効となります。
無効とは、最初から全く効果が生じないということですから、当然、公定力その他行政行為に認められる効力は生じません。
相手方は、そのような行政行為を無視して良いのです。
ただ、行政庁がその向こうを認めようとしないような場合は、その行政行為の内容通りの手続きが進行されられたりして、相手方は事実上不利益を被る可能性がないとは言えません。
例えば、課税処分において、税務署が賦課処分の無効を認めない場合は、引き続いて滞納処分がなされる可能性があり、「無視して良い」などと気楽に構えていられなくなります。
このような不利益を回避する手段として、ぎょうせ事件訴訟法は、行政行為の「無効等確認の訴え」という制度を設け、また争点訴訟、実質的当事者訴訟等により無効を主張するという方法があります。
②無効原因となる瑕疵 ーその分類
では、「重大かつ明白な瑕疵」つまり、行政行為の無効をもたらす瑕疵には、どのようなものがあるでしょうか。
瑕疵の重大性については、以下のように、行政行為の主体、内容、手続き及び形式解いた観点から把握しておきましょう。
(ⅰ)主体に関する瑕疵
(イ)行政庁の資格を持たない者が行った行為
読んで字のごとくです。
(ロ)適法に招集されず、あるいは定足数を欠くなど適法に組織されていない合議制行政機関の行った行為
例えば、収用委員会の委員が単独で行った収用裁決など。
(ハ)意思不存在の行政機関の行為
例えば、酩酊状態で仕事を行った結果をそのまま使用した場合などです。
(ⅱ)内容に関する瑕疵
(ニ)行政行為の内容が事実上または法律上実現不可能な場合
例えば、死者に営業免許や車の運転免許を与える行為、存在しない土地に対する収用裁決などがこれにあたります。
(ホ)行政行為の内容が不明確な場合
例えば、対象となる土地の範囲が明確でない土地買収処分など
(ⅲ)手続きに関する瑕疵
(へ)行政行為を行うに際して要求される重要な手続きの違背があった場合
例えば、処分をするについて、意見聴取の手続きとして審議会、公聴会の開催、あるいは聴聞または弁明の機会の付与が法律上義務付けられているにも関わらず、所定の手続きを踏まずに行われた行政行為は、一般には取消事由となります。
しかし、相手方や他の関係者の権利・利益保護のための需要な手続規定に違反する場合は無効事由となると解されています。
(ⅳ)形式に関する瑕疵
(ト)行政行為を行うに際して一定の形式が要求されているのに、これを欠く場合
例えば、書面によることが要求されている行政行為について、口頭で行った場合などがこれにあたります。

(2)行政行為の取消と撤回
行政行為の取消とは、行政行為に成立当初からの瑕疵があることを理由として、その行政行為がなされた時にさかのぼってその効力を失わせることです。
これには「職権による取消」と「争訟による取消」があります。
一方、行政行為の撤回とは、瑕疵なく成立した行政行為の効力をその後に生じた事情の変化を理由として将来に向かって失わせることです。
個別の法令においては、撤回にあたる場合も「取消し」と表現されている場合が多いので、注意してください。
①行政行為の取消
(ⅰ)職権による取消
行政行為に瑕疵があっても、それが「重大かつ明白」とまでは言えないような場合は、その行政行為は一応有効なmのとして効力を生じます。
このような行政行為は、その行政行為を行た当の行政庁が、その行政行為の違法または不当であることを認め、自らで取り消せば、その行政行為は初めに遡って無効となります。
これは、職権による取消です。
(ⅱ)争訟による取消
逆に違法または不当な行政行為を被った側がその処分の違法または不当を理由として権限ある行政庁に対して不服を申し立て、その取消しを求めることができます。
さらに、処分の違法を理由として裁判所に対して処分の取り消しの訴えを提起してその取消しを求めることもできます。
これを争訟による取消といいます。
この場合も、取り消された行政行為hあ、初めに遡って無効となります。
ちなみに、「瑕疵」については「瑕疵の治癒」というものがあります。
成立当時は「瑕疵」とされていたものが時流その他の状況により、「瑕疵」とされなくなった場合、「瑕疵の治癒」として当該処分が有効となります。
ただし、「瑕疵の治癒」が成立するのは瑕疵の程度が軽微な場合に限られます。
②行政行為の撤回
行政行為の撤回とは、その行政行為をした行政庁が、その後に生じた事情の変化を理由として、有効に成立した行政行為の効力を将来に向かって消滅させることです。
行政行為の撤回は、原則としてその行政行為を行った当の行政庁のみがこれをすることができます。
監督行政庁も、法律に明示されている場合の他は、撤回することができません。
③行政行為の取消・撤回の制限
行政庁は、行政行為に取消事由・撤回事由があるときは、初見に基づき原則て押して取消・撤回をすることができます。
しかし、違法な行政行為であっても、それによってさまざまな法律関係、事実関係が積み重ねられていることもあり、取消事由・撤回事由があるからといって、全く自由に取消・撤回ができるとすると国民の法的地位が著しく不安定となり、国民の行政に対する信頼を失わせることにもなりかねません。
そこで、行政行為の取消・撤回を適正な範囲に制限すべきことが主張されます。
この点について、租税賦課処分のように国民にとって不利益となる行政行為(侵害的行政行為)の場合には、その取消しは相手方の利益となるのですから、その自由な取り消しを認めても原則として差支えはないと言えるでしょう。
しかし、国民に権利利益を付与する授益的行政行為の取消や撤回については、問題があります。
尤も、各種の営業許可の取り消し(撤回)処分、自動車の運転免許の取り消し(撤回)処分などについては、当該法律の中に根拠規定が設けられ、その要件が明確に定められているのが通常ですから、手続き上は国民の権利利益が不当に侵害されることはありません。
問題となるのは、当該法律に取消(撤回)に関する明文規定が欠ける場合です。
この場合、一般論としては、相手方の信頼や既得利益の保護、法的安定性の観点から、取消し・撤回は制限されると考えられています。
ただ、相手方の既得の利益を犠牲にしても、取り消すべき特段の公益上の必要性があるときは、授益的行政行為であっても、なお、取り消すことができると解されます。