(1)行政庁の権限 ーその階層性と指揮監督権
行政庁が法令上行うことのできる行為の範囲を行政庁の権限といいます。
行政庁は法令によって一定の事項、地域に限って行い得る範囲が明確に限界づけられ、その権限の範囲内で行政主体の意思を決定し、これを外部に表示することができます。
行政庁は行政意思の分裂を避け、統一性を確保するためにピラミッド型の階層構造をなし、上級の行政庁がその系列下にある下級の行政庁を指揮監督するという上命下服の仕組みが取られています。これによって、行政責任が最終的には最上部の行政庁に集中する構造となっています。
指揮監督権の具体的な内容は次の通りです。
①監視権
上級行政庁が下級行政庁の事務の執行状況を知るために、調査したり報告を求めることができる権限です。
②許認可権
上級行政庁は下級行政庁に対してその権限の行使についてあらかじめ許可・認可を求めることができます。
この許認可は行政の内部的な行為です。
③訓令権
上級行政庁は下級行政庁の行政内容を指示するために、訓令・通達を発することができます。
書面で訓令を示達する場合が通達です。
④権限争議の決定権
上級行政庁は、下級行政庁の間で生じた権限に関する争いを裁定することができます。

(2)行政庁の権限の委任・代理・代決
①権限の委任
行政庁が認められた権限を自ら行使せず、権限の全部または一部を他の行政庁や補助機関に行わせる場合があります。これを権限の代行といいます。
また、行政庁が法令上自己に与えられた権限の一部を行政機関に委任して行わせることを権限の委任といいます。権限が委任された場合、委任をした行政庁はその権限を失い、委任を受けた行政機関が、その権限を自己の権限として、自己の名と責任において行使することになります。従って、行使した権限の法律効果は委任を受けた行政機関に帰属します。そのため、権限の委任に際しては法の明示の根拠が必要です。
権限を委任した場合、委任をした期間は委任を受けた機関を指揮監督することができないのが原則ですが、被委任機関が委任機関の下級行政機関や補助機関である場合は指揮監督の関係は失われません。
②権限の代理
権限の代理とは権限の委任とほぼ同じ効果が生じますが、違いは本来の権限の所在に変更が生じない点です。つまり、代理行政庁の行った行為の効果は被代理行政庁に生じます。
権限の代理には「授権代理」と「法定代理」の2つがあり、さらに法定代理は「狭義の法定代理」と「指定代理」に区別されます。
(ⅰ)授権代理
授権代理とは、権限のある行政庁が、自己の意思により他の行政機関にその権限の一部を代理行使する権限を与えることにより、代理権が発生する場合です。この場合は本来の行政庁の権限は代理機関に移動しませんかrあ、法律の根拠は必要でないとする通説的な考え方です。
(ⅱ)法定代理
法定代理とは、行政庁が欠けたときまたは事故があった時に法律の定めるところに従い他の行政機関が、本来の行政庁の権限の全てを代行することです。これには「狭義の法定代理」と「指定代理」があります。
狭義の法定代理とは、法律の定める一定の機関が当然に代理権を行使する場合です。
指定代理とは、あらかじめ本来の行政庁が指定しておいた機関が代理権を持つことになる場合です。
(ⅲ)代決(専決)
代決とは、行政庁がその補助機関に事務処理について決定あるいは決裁を委ねるが、外部に対する関係では、本来の行政庁の名で表示することです。これには法令の根拠は必要ありません。
たとえば、役所の首長の印が押された紙を使用する場合などが、代決です。こうしないと、首長は一日中ハンコをついているというような、河野太郎さんもびっくりの押印マシンになってしまいます。
ちなみに、代決と専決という用語は統一的に使われていない場合があるため、注意が必要です。