審査請求書が審査庁に提出され、審理手続が開始されると、次のようなプロセスを経て審理が行われ、その結論としての裁決がなされることになります。
時間的な流れに沿って、その概要を把握してください。
(1)審理員の指名
審査請求がされた行政庁(審査庁)は、一定の例外的場合をのぞいて、そこに所属する職員(補助機関)のうちから審理手続を行う者を審理員として指名するとともに、その旨を審査請求人及び処分庁等に通知することが義務付けられています。
審理員は、審理手続を主宰し、紛争当事者である審査請求人と処分庁の主張及び証拠の整理を行い、審査庁がすべき裁決に関する意見書を取りまとめるという重要な役回りを果たします。
尤も、裁決はあくまで審査庁が行い、審理員は、その補佐的な職務を行うものです。
審理員は、審査庁の職員のうち、対象となっている処分や処分に係る再調査の請求についての決定に関与せず、また処分について利害関係を持たない者でなければなりません。
これは、審理の中立性及び公平性を確保し、審査請求に対する国民の信頼を維持するためです。
尤も、審理員は、審査庁に属する職員の中から指名されるのですから、当該行政組織から完全な形で独立した第三者ではありません。
なお、内閣府や各省の外局として設置される委員会や審議会、普通地方公共団体の執行機関としての委員会が審査庁となる場合には、審理員の指名を必要としません。
これらの機関は、優れた識見を有する委員で構成された合議制の機関であり、制度上公正かつ慎重な審理を期待できますから、あえて審理員の指名を要しないとされています。
これらの場合には、審理員ではなくそれらの審査庁が審理手続を担当することになります。
加えて改正法は、上記の制度を導入して審理の中立性・公平性の確保を図りつつ、審理の迅速化を促進するため新たに次のような制度を定めています。
①標準審理期間の設定・公表
審査庁となるべき行政庁は、審査請求がその事務所に到達してから当該審査請求に対する裁決をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、公にしておかなければなりません。
この標準審理機関は、個別の審理請求を前提とするものではなく、審査庁となるべき行政庁は、あらかじめこれを定める努力義務を負う事になります。
②審理手続の計画的進行
審査請求人、参加人及び処分庁(これらの者を「審理関係人」と言います)並びに審理員は、簡易迅速かつ公正な審理の実現のため、審理において相互に協力するとともに、審理手続の計画的な進行を図らなければなりません。
③事前の意見聴取
審理員は、迅速かつ公正な審理を行うため、審理手続を計画的に遂行する必要があると認める場合には、期日及び場所を指定して審理関係人を招集し、あらかじめ、口頭意見陳述、証拠書類等の提出、鑑定、検証等の申し立てに関する意見の聴取を行うことができます。
(2)利害関係人の参加
利害関係人は、審理員の許可を得て、参加人として審査請求の手続きに参加することができ、また審査庁の職権で手続きへの参加を求められることがあります。
利害関係人とは、審査請求人以外のものであって審査請求に係る処分または不作為に係る処分の根拠となる法令に照らし当該処分につき利害関係を有するものと認められる者のことです。
審査請求人と利害の相反する立場にある者が典型例です。
例えば、大規模マンションの建築確認処分について、周辺住民などの処分の相手方以外の第三者がその取り消しを求めて審査請求をした場合、処分の相手方は建築確認処分の取り消しによって不利益を受ける事になりますから、利害関係人に当たります。
(3)弁明書・反論書の提出
審理員は、審査庁から指名されたときは、処分庁等が審査庁である場合を除いて、直ちに審査請求書または審査請求録取書の写を処分庁等に送付するとともに、処分庁等に対し、相当の期間を定めて弁明書の提出を求めるものとされています。
弁明書というのは、処分庁等が自己のした処分または申請に対する不作為に理由があり正当であることを説明する文書です。
処分についての弁明書には「処分の内容及び理由」、不作為についての弁明書には「処分をしていない理由ならびに予定される処分の時期・内容及び理由」を記載することが義務付けられています。
審理員は、処分庁等から弁明書の提出があったときは、これは審査請求人及び参加人に送付しなければなりません。
弁明書の送付を受けた審査請求人は、弁明書に記載された事項に対する反論書を提出することができ、また参加人は、当該事件に係る意見書を提出することができます。
審理員は、提出を受けた反論書を参加人及び処分庁等に、意見書を審査請求人及び処分庁等に、それぞれ送付しなければなりません。
(4)審理手続における審査請求人等の手続的諸権利
①書面審理と口頭での意見陳述
審査請求の審理は書面によることを基本としつつも、審査請求人または参加人から口頭での意見陳述の申し立てがあったときは、審理員は、その申し立てをした者に対し、原則として口頭で意見を述べる機会を与えなければならないとされています。
その際、申し立て人は、審理員の許可があれば、補佐人を伴って出頭することもできます。
ただ、この権利は、訴訟における口頭弁論と異なり、審査請求人と処分庁との対審的な審理まで予定しているものではありません。
審査請求においても、書面審理オンリーではなく、審理員に言い分を聞いてもらう権利も認められていると理解してください。
この口頭意見陳述の際に、申し立て人は、審理員の許可を得て、処分庁等に対して質問を発することもできます。
一方、審理員の側からも、申し立てまたは職権で審査請求人や参加人に対し質問を発することができます。
②証拠書類または証拠物の提出
行政不服申し立てにおいては、行政事件訴訟の場合と異なり、職権探知主義が採用されていますが、審査請求人や参加人は、証拠書類や証拠物を提出することができます。
一方、処分庁等は、当該処分の理由となる事実を証する書類その他の物件を提出することができ、審査請求人や参加人はそれらの証拠書類等の閲覧・交付等を求めることができます。
この場合、審理員は、第三者の利益を害する恐れがある等の正当な理由がなければ、その閲覧・交付を拒むことができません。
③物件の提出・鑑定・検証等の要求
さらに、審理員の職権または審査請求人や参加人の申し立てによる物件の提出要求、参考人の陳述または鑑定、必要な場所での検証及び審理員による審理関係人への質問等の手続的な諸権利が認められています。