(1)意義
民法には「法律行為」という概念があります。法律行為の典型は当事者間の意思表示の合致によって成立する契約です。私人間で締結される契約は私法契約と呼ばれ、その法律関係は、民法や商法等の私法によって規律されます。行政の活動にも行政契約というものがありますが、これは行政主体間で締結される契約及び行政主体と私人間で締結される契約のことです。前者の例としては、国が国有財産を普通地方公共団体に払い下げる契約(売買契約)、後者の例としては、国や普通地方公共団体が民間業者と締結する公共事業の請負契約や公共用地取得のための売買契約、さらに普通地方公共団体と事業者の締結sる公害防止協定もこの例に数えられます。

(2)行政契約の特質 契約自由の原則との関係
行政契約は、権力的行政作用である行政行為と異なり、当事者間の意思表示の合致により成立する非権力的な行政作用といえます。例えば、公共事業のために用地を取得するような場合、相手方が売却に応じないときは、最後の切り札として土地収用裁決という行政行為により強制的に土地を取得するという手段がありますが、いきなり土地収用という伝家の宝刀を抜くわけではありません。通常は、土地所有者と交渉して任意に売却に応じてもらうという方法を採ります。その場合には、行政主体は私法上の契約の一方当事者の立場に立ち、その法律関係には原則として民法等の私法の規定が適用されることになります。このような場面では、行政契約といっても、私法契約と本質的な差異はありません。ただ、行政契約は私人間で締結される契約と異なり、公益の確保を目的としますから、私人間に妥当する契約自由の内容が一定程度修正される場合があります。
私人間においては、契約を締結するかどうか及び契約の内容をどのように定めるかは当事者の自由であり、また債務不履行があった時は、所定の手続きを踏んで契約を解除することができます。しかし、例えば、行政主体の行う水道の給水契約については、正当な理由がなければ、給水を拒否することができないという制限があり、またその利用料金を利用者との合意で自由に定めることはできません。このように、生活必需サービスとして行政主体の行う径悪については、契約締結の自由や契約内容の自由が公益目的から制限されることになります。さらに、普通地方公共団体が締結する売買や請負等の契約については、原則として一般競争入札によるものとし、指名競争入札、随意契約等による契約方法は例外的なものとして位置づけられています。これは公平な受注機会の提供や公正な価格形成といった公益目的を達するために、契約方法の自由が制限されている例です。