行政救済には大きく分けて行政不服申し立て及び行政事件訴訟という争訟による救済制度と国家賠償及び損失補償という金銭による救済制度の二つがあります。
行政不服申し立ては、行政機関に対して救済を求める制度であり、行政事件訴訟は裁判所に対して救済を求める制度です。
国家賠償は、国や公共団体の違法な行政活動から生じた損害の賠償を求める制度であり、損失補償は、国や公共団体の違法行為により生じた損失の填補を求める制度です。
国家賠償及び損失補償は、併せて国家補償と呼ばれることがあります。
(1)争訟による救済
自動車の運転免許停止処分は、都道府県公安委員会の権限とされていますが、通常、都道府県公安委員会の委任による道府県警察本部長が行います。
90日以上の免許停止処分をする際には、道路交通法による事前に聴聞手続きを行うことが義務付けられています。
しかし、その処分に不満がある場合は、行政機関に不服を申し立て、あるいは裁判所に訴えを提起して、その取り消しを請求することができます。
つまり、警察本部長の免許停止処分に文句をつける方法は二つあるわけです。
その相互の関係について、まず裁判による救済手段からみていくことにします。
①裁判による救済
免許停止処分が違法であることを理由として、裁判所に「免許停止処分取り消しの訴え」を提起することができます。
この方法によれば、独立性の保証された裁判所という国家機関により慎重・公正に審理がなされます。
そして、裁判所が免許停止処分が違法であると認定すれば、判決により処分の取り消しが宣言されることになります。
裁判所による取り消し判決が確定すれば、免許停止処分は、それがなされた当初に遡って無効となります。
ただ、この応報は、慎重な審理が保証されていることのいわば裏返しとして、多大な時間と労力を要し、原告となる国民にとって、精神的にも、また労力的にも負担が大きすぎるという欠点があります。
②不服申し立てによる救済
そこで、訴訟による方法とは別個に国民の権利利益の保護のために、より簡便で利用しやすい方法として、行政不服審査法という法律に基づく不服申し立てという手段が設けられています。
以下、その概略を説明します。
不服申し立ては原則として審査請求という手段によって行います。
つまり、「行政庁の処分に不服だ、納得がいかない」という場合には、処分の違法または不当を理由として、その処分を行った行政庁を相手方として処分の取り消しを求め、またはその処分を行った行政庁の上級行政庁等を相手方として処分の取り消しを求めることができるわけです。
ただ、一般的に言って、行政不服審査は、裁判と異なり書面審理が原則となっている等、手続き的にはより簡易化されていることから迅速な権利救済が可能となっていますが、その反面、慎重・公正という面からは行政事件訴訟には及ばないということも言えます。
(2)不服申し立てと行政事件訴訟の関係
国民は、まず行政不服審査法に基づく不服申し立てによる救済を求めることもできますし、いきなり行政事件訴訟を起こすことも認められています。
さらに、不服申し立てをしている最中に行政事件訴訟を起こすこともできます。
これを自由選択主義といいます。
尤も、これは原則であって、個別の法律で、当該処分に対する審査請求の採決を経た後でなければ、処分取り消しの訴え(行政事件訴訟)を提起できない旨の定めがあるときは、まず審査請求をしなければなりません。
これを審査請求前置主義といいます。